突然変異の繰り返しには長い時間が必要だから、「黒人がいちばん古い人種だと解釈できて、他の人種はそこから枝分かれしていった。 そしてミトコンドリア遺伝子の原型が作られたのは」、前述した分子時計の考えかたから「20万年前と計算できる」という研究結果になったのである。
そのミトコンドリアをもっていたであろう女性を、聖書のアダムとイブになぞらえてイブとしたため、研究の内容も″イブ仮説″と呼ぶようになった。 このようなことから、私たち日本人もふくめた現代人の先祖は、「20万年前にアフリカにいた1人の女性であることがわかった」と発表したのである。
この論文に多くの人類学者や考古学者が驚いた。 前に紹介してきたようないくつかの疑問を抜きにして、ストレートに人類アフリカ発祥説を採用したのも驚きだったが、たった20万年前の女性が現代人すべての″イブ″だという説明に仰天した。
それ以前のヒトはどこへ行ったのか。 20万年という短時間で、はたしてこれだけ多様な人種が生まれるものだろうか。
疑問や反論はつきない状態になった。 新しい手法だけに、別の遺伝子分析では別の結果が出たとの報告まで加わって、進化学はいまホットな学問分野となっているのである。
ヒトの細胞1つに数百個のミトコンドリアが含まれていて、それぞれに1万6千5007個の塩基ペアで構成されるDNAチェーンがある。 これがミトコンドリアDNAで、同1人物ならどの細胞にあるミトコンドリアを見ても、同じDNAの配列具合となっている。
しかし他のヒトとくらべた場合には、配列のどこかが異なっているのがふつうだ。 親から子へ伝わるときも、DNA配列がミスコピーされて伝わる突然変異が起きる可能性があり、世代交代の繰り返しのなかで差異が積み重なる。
もとは同じルーツから出たヒトたちでも、分かれてから時間がたてばたつほど互いのDNA配列には違いが出てくる。 また、ひとたび異なる配列をもった系列が生まれ、そこにさらに突然変異が重なると、他のグループとはまったく異なった変異パターンを示すようにもなる。

ちなみに、ヒトとチンパンジーのミトコンドリアDNAの配列をくらべてみると、10個につき1個の違い、つまり率にして約10パーセントもの違いが見られる。 ヒト同士の場合は、せいぜい1パーセントなのだが、それでも必ずどこかに違いがある。
前述のように、ミトコンドリアのDNAは両親から伝わるのではなく、母親だけから伝わるので、突然変異がない限り母子のあいだではDNA配列の狂いがない。

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